「母の上京」は、1947(昭和22)年 「人間」に発表された坂口安吾の中編作品。戦後の混乱と貧困の中で、過去を逃れ堕落した男が、母の来訪を機に運命と向き合う物語。
作品データ
作品名 | 母の上京 |
作品名読み | ははのじょうきょう |
url(青空文庫) | https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42912_25522.html |
作者名 | 坂口 安吾 |
発表年 | 1947(昭和22)年 |
ジャンル | 青春/社会・戦争 |
読了時間目安 | 42分 |
おすすめ |
あらすじ
夏川は、過去の過ちから逃れるように、故郷と音信を絶ち、東京で闇屋として荒んだ生活を送っていた。ある日、彼の元へ故郷の母が訪ねてくる。同時に、夏川は隣室に住むヒロシという若い男娼に惹かれ、奇妙な共同生活を送ることになる。
ヒロシは女形を目指していたが、戦後は歌舞伎役者を辞め、淫売をして生計を立てていた。彼は古典的な女性像に憧れを抱き、心は完全に女性であった。夏川はヒロシの純粋さに惹かれながらも、彼の献身に恐怖を感じていた。
夏川の生活は、ヒロシとオコノミ焼の母娘との奇妙な三角関係、そして過去の闇屋仲間との交流の中で、ますます堕落していく。彼は過去の罪悪感、将来への不安、そして孤独感に苛まれながらも、現実逃避のように酒と女に溺れていく。
母の訪問をきっかけに、夏川はヒロシと共に家を飛び出すが、路上生活者同然の暮らしの中で、さらに悲惨な状況に陥る。最後は、ヒロシを連れて母の待つ家に戻り、自らの惨めな姿を母にさらけ出すことで、これまでの罪を償おうとする。
しかし、その結末は悲劇的であり、夏川はヒロシを傷つけ、母に衝撃を与える。彼は自分の運命を受け入れ、現実の厳しさと向き合うこととなる。
作品の特徴
主要登場人物人数 | 5 |
男女比 | 男3女3 |
表現的特徴・キーワード | 男娼 |
時代 | 昭和以降 |
舞台の国/地名/土地柄など |
登場人物
★夏川: 主人公。40歳。戦後、故郷と音信を絶ち、東京で闇屋をしながら荒んだ生活を送っている。 ★夏川の母: 70歳を超えた老女。厳格な性格で、夏川は幼い頃から母に強い恐怖心を抱いていた。 ★ヒロシ: 22歳。夏川の隣室に住む男娼。元々は歌舞伎役者を目指していたが、戦後は生活のために淫売をしている。 ★オコノミ焼の母: ヒロシと暮らす、50歳近い女性。娘と共にオコノミ焼屋を営んでいたが、戦災で焼け出され、夏川の隣室に引っ越してくる。娘を闇の女にさせたことを後悔し、夏川に執着するようになる。 ★オコノミ焼の娘: ヒロシと暮らす、18歳の女性。美貌を生かして闇の女として働いている。夏川とも関係を持っていたが、現在は冷めた態度をとっている。 ★親友: 夏川の闇屋仲間。戦前は屋台のオデン屋を営んでいた。夏川にオコノミ焼の母との関係を警告する。
出典:青空文庫