「白痴」は、1946(昭和21)年「新潮」 に発表された坂口安吾の中編作品。敗戦間近の場末の荒んだ人々の暮す裏町の小屋に居る独身の映画演出家の男が、隣家の白痴の女と奇妙な関係を持つ物語
作品データ
作品名 | 白痴 |
作品名読み | はくち |
url(青空文庫) | https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42621_21290.html |
作者名 | 坂口 安吾 |
発表年 | 1946(昭和21)年 |
ジャンル | 官能・耽美/戦争 |
読了時間目安 | 58分 |
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あらすじ
敗戦色濃い戦時下、映画会社で見習い演出家をしている伊沢は、ある晩遅く帰宅すると、隣家の気違いの女房で白痴の女が押入れの蒲団の横に隠れていた。何やらよく分らないことを呟いて怯えている女を、伊沢は一晩泊めてやることにしたが、女の分も寝床を敷いて寝かせても、電気を消してしばらく経つと女は戸口へうずくまった。伊沢が、手は出さないと紳士的に説き伏せても女は何度も隅にうずくまるので、伊沢は腹を立てたが、女の言うことを注意深く聞くと事態はあべこべだった。女は伊沢の愛情を目算に入れてやって来ていたのだった。伊沢が手を出さないため、自分が嫌われていると女は思ったのだった。
その日からそのまま女はそこに住みつき、近所に知られないまま二人は同居した。白痴はただ伊沢の帰宅を待つ肉体であるにすぎず、そこにあるのは無自覚な肉欲のみだった。もう一つ伊沢に印象的だったのは、ある白昼の空襲の際におびえた白痴の恐怖と苦悶の相の見るに耐えぬ醜悪さだった。伊沢は3月10日の大空襲の焼跡で焼き鳥のような人間の屍を見ながら、白痴の女の死を願ったりした。
4月15日、伊沢の住む町にも大規模な空襲がやって来た。火の手が迫る中、仕立屋夫婦はリヤカーで逃げる際に伊沢も一緒にと急き立てたが、白痴の姿を見られたくない伊沢は、みんなが立ち去った後に女と逃げた。
作品の特徴
主要登場人物人数 | 3 |
男女比 | 男2女1 |
表現的特徴・キーワード | |
時代 | 昭和以降 |
舞台の国/地名/土地柄など |
登場人物
★伊沢:27歳。独身。文化映画会社で演出家(見習いで単独演出はない)をしている。 ★白痴の女:25、6歳。気違いの女房。 ★気違い:30歳前後。風采堂々たる好男子。伊沢の隣人 ★仕立屋夫婦:伊沢の大家。伊沢の小屋は昔、仕立屋夫婦の肺病の息子が寝ていたところ。 ★気違い男の母親:正気だがヒステリーで女傑。 ★映画会社の上司など ★近所の住人 ★空襲下の人々
出典:青空文庫